ペプシノゲン法とヘリコバクターピロリ
松江赤十字病院第三内科 井上 和彦
1.ヘリコバクターピロリと胃・十二指腸の病気
胃粘膜にHpが感染すると、まず炎症が発生する。それに、食事など色々な環境要因が加わって、胃粘膜萎縮(胃の老化)が出現し、進行する。炎症は強いが萎縮は軽い段階で発生する胃癌もあるが、萎縮が進行した状態で胃癌の発生をみることが多い。逆に、Hp未感染者は胃粘膜に炎症や萎縮が出現することは少ない。この健康的な胃粘膜に十二指腸潰瘍・胃潰瘍が発生することは少なく、胃癌が発生することは稀である。
世界保健機構の下部機関であるIARCは、1994年に疫学的研究から「Hpは胃癌の発癌原因物質である。」とコメントした。その後、スナネズミのHp感染実験で胃癌の発生が報告された。また、ヒトにおいてHp未感染者からの胃癌発生は非常に少ないことが報告された。さらに、早期胃癌を内視鏡で治療した後に行うHp除菌は、他の部位での新たな胃癌発生を抑制する可能性が期待されるなど、近年、Hpと胃癌の強い関連が注目されている。
2.ヘリコバクターピロリとペプシノゲン値
なお、Hp除菌治療に成功すれば、PGI値、PGII値はともに低下し、I/II比は上昇する。そして、その状態はその後も継続する。したがって、PG値測定はHp除菌判定やその後の経過観察の良い指標の1つとなりうる。しかし、このことは除菌によりPG法判定が変化する可能性を示しており、検診などでのPG法判定に際して注意を要する。その他にPG値に影響を及ぼす因子としては、胃酸分泌抑制剤の内服、腎障害などが挙げられる。
3.ペプシノゲン法とヘリコバクターピロリ抗体価併用による胃の健康度評価
PG、Hp抗体価測定と内視鏡検査を同じ日に行った人間ドック受診者2,996例(男性2,081例、女性915例、24歳~89歳、平均51.0歳)を対象とした。Hp抗体とPG法判定の血液検査結果から、Hp抗体(-)PG法(-)をA群、Hp抗体(+)PG法(-)をB群、Hp抗体(+)PG法(+)をC群、Hp抗体(-) PG法(+)をD群と分類した。
各群の占める割合は、A群が626例(20.9%)、B群が1,372例(45.8%)、C群が727例(24.3%)であり、D群は13例(0.4%)のみであった。なお、Hp判定保留群は258例(8.6%)であった。年齢階層別には、男女とも年齢が高くなるにつれ、A群が少なくなり、C群の割合が高くなった。
血液検査と同じ日に行った内視鏡検査で発見された胃癌は17例あった。そのうち14例がC群、2例がB群、1例がHp判定保留群であり、A群では認められなかった。C群での胃癌発見率は1.93%であり、A群(0%)、B群(0.15%)に比べ有意に高い発見率であった。性、年齢別に検討しても、40歳代、50歳代男性ではC群での胃癌発見率はその他の群に比べ有意に高い結果であった。また、翌年度以降(1~5年)での胃癌発見率もC群で最も高く、A群では1例もなかった。
過形成性ポリープもC群で高率であり、胃腺腫4例はすべてC群であった。
消化性潰瘍(瘢痕を含む)は男女ともにB群で最も高率に認められた。C群での胃潰瘍の頻度はB群とほぼ同程度であったが、十二指腸潰瘍の頻度はB群に比べると低率であった。A群においては消化性潰瘍の頻度も非常に低率であった。
以上の内視鏡検査を基準とした検討結果から、血液検査でHp感染・胃粘膜萎縮の有無をチェックすることにより、胃の健康度評価が可能と考えられる。Hpの慢性感染の大部分は幼少児期に生じ、成人での新たな感染が慢性化することは稀である。したがって、成人に行われる胃検診でA群と判定された受診者はその後B、C、D群になることは稀と考えられ、胃疾患の危険性は将来も含めて非常に低いと考えられる。一方、C群は胃癌、胃腺腫、過形成性ポリープなど胃粘膜萎縮を発生母地とする疾患の高危険群と考えられ、毎年定期的に内視鏡検査を行う必要がある。D群は胃粘膜萎縮・腸上皮化生が非常に高度となり、Hpが棲息できなくなった状態と考えられ、C群と同じように毎年内視鏡検査が必要であろう。B群はHp感染による炎症はあるが、萎縮は軽い状態と考えられ、消化性潰瘍などに注意する必要があると思われる。このように、胃の健康度を評価し、各個人の日常生活における注意点、内視鏡検査の必要度を明らかにすることは大切と考えられる。
